沈まぬ太陽

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2009年 日本

監督 若松節朗
脚本 西岡琢也
出演 渡辺謙
    三浦友和
    石坂浩二
    鈴木京香
撮影 長沼六男
音楽 住友紀人
原作 山崎豊子 『沈まぬ太陽』

『白い巨塔』『不毛地帯』などの骨太社会ドラマ小説を得意とする、山崎豊子さん原作を映像化。
大長編で映画の間には、休憩が入るほど。
この前映画館に行ったのだが、驚きの大行列。しかも年齢層が高いかたばかり…。
山崎豊子作品への根強いファンが多いことを認識した。

架空の航空会社、国民航空で働く恩地(渡辺謙)と行天(三浦友和)はかつて労働組合で労働条件向上の為の闘争に励んでいた。
恩地はその頃の活動のせいで、会社に煙たがられ、世界の僻地へ左遷されてしまう。
一方、行天は出世街道を突き進んでいく。
10年ほどの海外勤務を耐えた恩地が日本に戻った頃、国航ジャンボ墜落事故(日航機墜落事件が元)が起こる…。

期待していたより面白くなかったと言っていいと思う。
残念ながら、『白い巨塔』と同じことをやっているだけである。そして作品としては『白い巨塔』に劣ると思う。
私は『白い巨塔』は2003年のテレビドラマしか観ていないのだが、あの作品はよく出来ていると思う。

理想家で正義感の強い恩地と、出世思考の強い行天の構図は、そのまま『白い巨塔』での里見と財前に当てはまる。
だが、決定的に違う点が二つあると思う。

まず一つは主役。
この作品では恩地を主役として作られているが、『白い巨塔』では財前が主役である。
正論をかざして理想を突き進む恩地を主人公とするのは一見当たり前のように見えるが、はっきり言うと面白くない。
恩地の言う“理想”や“正義”というのは、誰の中にもあるものだからだ。
どんな辛い境遇になってもそれを突き通す強さ、家族を不幸にしてまで突き通すことかという葛藤、というのが恩地の持つパーソナリティーだとは思う。
だが一方でそのつくりは「愚痴映画」になってしまう部分もあるのだ。

「正義の恩地が社会に追いやられて可哀想…」
というステレオタイプで薄っぺらい映画になってしまっている部分がある。
それはこの社会を描く上では、非常に表層的な視点だと思う。

財前を主役に据えた『白い巨塔』とは違い、
「何が彼をそこまで掻き立てるのか」
「なぜ彼はそれほどまでに出世にこだわるのか」
という一歩進んだ議論を生んでくれない。
映画を観終わった後に考えることがない。誰が見ても恩地が正義であるように作られているからだ。

もう一つの違いについてもこのことにつながる。
出世思考の行天に理由がないのである。これがこの映画を決定的に薄くしている。
財前はどうだっただろうか…。彼はなぜあれほどまで出世にこだわったのか。
彼は自分の理想である癌センターを設立し、世界にも太刀打ちできる医療設備を作ることが目的だった。それがより多くの人を救う彼なりの正義だったのだ。
その考えを突き詰めていくことで、成り立っていたキャラクターだった。
そして、それは一方では正論なのかもしれないとさえ思えた。

では行天はどうだろう…。
少なくともこの映画を観ているだけでは、彼の理想や正義を感じることが出来なかった。
彼は出世して何をしたかったのだろうか。
それが見えないから、彼はただの悪の象徴に成り下がってしまっている。
そのせいで、恩地、行天の友情も感じられず、薄っぺらい作品に見えてしまった。

なにも『白い巨塔』と対比させる必要なんてないのかもしれない。。
だが、はっきり言って「対比してください」と言わんばかりの作りなのだ。
石坂浩二さんや品川徹さんなどは「またこれかよ~」と思うような役柄。ラストで『白い巨塔』で弁護士を演じた上川隆也さんが、検事役で登場したときはギャグかと思った。
なぜこれほど似通った作りにしてしまったのか。。
残念ながら作品のアラを目立たせるだけに終わってしまっている。

だが、私が観ていた時は上映終了後に拍手がチラッと起こっていた。
今まで映画館で拍手が起こっているのは初めて聞いた。当時を知っている人たちの拍手なのかもしれない。。
その方たちの心には大きな感動を残したのは事実だろう。

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ぐるりのこと。

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2008年 日本

監督/脚本 橋口亮輔
出演 木村多江
    リリー・フランキー
    倍賞美津子
撮影 上野彰吾
音楽 Akeboshi
配給 ビターズ・エンド

2001年に名作『ハッシュ!』を撮った後、うつ病を患い長らく映画界から姿を消していた橋口亮輔監督の新作。
去年劇場で見逃してしまって、やっと観れた。

橋口監督は自身でも公表している通り、ゲイである。
それもあってか、橋口監督の今までの作品は全てゲイの人々を描いていた。
男女の夫婦を描くのはこれが初めてである。

職を転々とし、女性にもだらしのない夫と結婚することを決めた幼馴染の妻。
画家を目指す夫は友人から進められた法廷画家の仕事にありつく。
その一方、身ごもった子供の死という出来事から、妻は徐々にうつ状態になっていく…。

冗長的な映画だと思った。上映時間も140分と長め。
ただ、不思議なのはずっと見ていられることだ。
蛇足に見える一つ一つのシーンの積み重ねが心地よく、それがこの作品全体の暖かな空気感を作り上げている。

またこの作品で数々の賞を得た木村多江さんの芝居は見ごたえがあって素晴らしい。
橋口監督自身が体験した“うつ病”というものに、近づき過ぎず遠すぎず演じていた。
通常の生活をこなしつつも、どこか頼りなく、危なげ。
そして、あの本屋さんのシーンのように、突如として感情が湧き上がってきて止められなくなる。
まだまだ、ワーワー!!わかり易くわめいてくれていた方が安心な気さえしてくるのだ。

木村多江さんは一般的に幸薄女性役が当たり役と言われ、現にその方向の役が多い。
こんど公開する『ゼロの焦点』でもおそらくそうなのだろう。
だが私はちょっと違った点で観たいと思う。

もちろん彼女の“泣き”の芝居は、まるで子供が泣いているような弱弱しさがある。
ただ、この作品の中で、夜中に1人で画集を見ているシーンがあるのだが、その時の表情が抜群にいいのである。
艶があって嬉しそうで…。そういった陽の側面の方が似合うのかもしれないと思わせられた。

また所々で木村多江さんとリリー・フランキーさんのおそらくアドリブ芝居であろうシーンが見られる。
冒頭の部屋でのシーンとか、雨の日のシーンとか、お風呂のシーン、など。
ここもとっても長いのだが、見ごたえがある。木村多江さんが性格上マジメに演じようとしている所をリリーフランキーさんが持ち前のラフさでスッとかわす感じ。
これがそのまま役としてのの夫婦像なんだろうと思えるし、素の芝居を引き出した橋口監督の腕だろうと思う。

この作品の面白い部分のもう一つは、この夫婦の生活と平行して、実際の事件を題材にした裁判のシーンが挟まれてくるところだと思う。
某小学校襲撃事件や、某宗教団体の裁判が描かれる。
リリー・フランキー演じる夫は、妻のうつというものを抱えながらそれらの事件の犯人の絵を描き続けるのだ。

この法廷シーンでは橋口監督の皮肉たっぷりのユーモアが見られる。
加瀬亮さんが登場する場面では、笑ってはいけないと思うのだけど、思わずニヤリとしてしまうのだ。
時代と共に形を変えて世間を賑わす犯罪。時代が移り変わっても中々変わらない夫婦。
この“パブリックな事象”と“プライベートな事象”が同時進行で進んでいくのは、意味としてあるのかどうかは分からないが、面白い対比であると思う。

この映画を観ていると結婚することの怖さと喜びをいっぺんに感じられる。
この1,2年の私が観た邦画の中では間違いなくベストな作品だと思います。

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ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

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2008年 アメリカ

監督/脚本 ギレルモ・デル・トロ
出演 ロン・パールマン
     セルマ・ブレア
     ダグ・ジョーンズ
撮影 ギレルモ・ナヴァロ
音楽 ダニー・エルフマン
原作 マイク・ミニョーラ 『ヘルボーイ』

アメコミ界の王者、マーベルコミックスに果敢に挑むダークホースコミックスから出版されたコミックの映画第2弾。
映画第一作の『ヘルボーイ』では、なかなか期待感を誘うキャラクターの造形であるにも関わらず、アクションの少なさとちゃちさで肩透かしを食らった感じだった。

超常現象捜査防衛局ではヘルボーイとエリザベスが二人の価値観の違いから、仲違いをしている。エイブはエリザベスの体に異変が起こっていることに気付くが…。
その頃、地下では古のエルフの王子が、伝説の最強軍団「ゴールデンアーミー」を復活せしめんと暗躍していた。

娯楽活劇としては、一作目よりも断然バランスが取れたと思う。
スケールの大きいアクションも増やし、ジョークも倍増した。
また、2作目で新たに登場した新キャラクターの造形が素晴らしい。

(以下、若干ネタバレあり)
ヘルボーイの監視役として新たに配属されたヨハン・クラウス:ジョン。
からくり人間なんだか、ガス人間なんだか、(本人曰くプラズマ)よく分からないところが笑える。
機械的で饒舌な喋りと、常にカタカタ動く脳みそ、などもブラックなユーモアたっぷりだ。
しかもそれだけでなく、きっちり強いのだ。不死身に近いところを見ると最強かもしれない。
本人の過去の話が少しだけ触れられる点はあきらかに蛇足だとは思うが…。

また死の天使の造形も、まるでロールプレイングゲームから飛び出してきたような強烈なルックス。
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↑『ヘルボーイ』のゴシックな雰囲気を決定付けるキャラクターである。
そして彼(いや、彼女か)も相当カッコいい。
ヘルボーイの傷を治すシーンなんかは鳥肌ものだ。このキャラクターをもっと見たいとさえ思ってしまった。

しかし、なぜかどうもこのキャラクター達を生かしきれていない感がある。
こういうヒーローが多数登場する作品ではありがちな現象だが、魅力的なキャラが登場すればするほど、主人公が一番つまらなくなる。
言ってしまうとヘルボーイ自体は真っ赤な力持ちでしかないのだ。彼がもっと魅力的に映らないと作品全体が霞んでしまう。

個人的にはいっそのこともっともっとバカ力でもいい気はする。
ラストも素早い動きでチャンバラなんかするんじゃなくて、想像を絶するような怪力を見せて欲しかった。あれでは主人公であるはずの彼が最も都合いいキャラになってしまっている。
動きが鈍くてもいい。誰よりも怪力であれば。それが彼のアイデンティティーなんだから。

その瞬間を楽しむ娯楽作であるのは間違いない。
DVDを買いはしないけど、テレビで放送しているのを観かけたら間違いなく最後まで観てしまうタイプの作品。
レンタルには丁度いいだろう。

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母なる証明

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2009年 韓国

監督/脚本 ポン・ジュノ
出演 キム・ヘジャ
    ウォンビン
    チン・グ
撮影 ホン・クンピョ
音楽 イ・ビョンウ
配給 ビターズエンド

『ほえる犬は噛まない』、『殺人の追憶』等の良作を作り、世界的に注目されるポン・ジュノ監督最新作。

小さな漢方薬局で働く母は、1人息子のトジュンを溺愛している。
トジュンも頭は良くなく記憶も曖昧で、不良友達のジンテに利用されることもあり、その度に母にかばわれていた。
ある日、近所で女子高生の殺人事件が起こり、警察はトジュンへ疑いの目をかける…。

非常に良く出来た完成度の高い作品だと思う。
様々な伏線の張りかた…。
冒頭の母の不気味な踊りからしてすでにこの作品の仕掛けになっている。
記憶をなくすツボの話や、針の箱など。
巧妙でそれでいてうるさ過ぎない丁度いい加減の伏線だ。

前半はなんてことなく、ポン・ジュノさんお得意のブラックユーモアでひっぱっていくが、ウォンビン演じるトジュンが母親にある告白をするところから、作品は一気に闇の中へ落ちていく。
このシーンのウォンビンは最高の芝居をしている。
いや、そこまで芝居を組み立てたポン・ジュノさんが凄いのかもしれない。

そしてどんどん泥沼にはまっていき、引き返すことが出来なくなる。
愛ゆえに…と、いうところだろうか。

ただ、言うほど衝撃的かと言われるとそうでもない。
よく考えてみると、ストーリー自体は火曜サスペンス劇場の域を出ていないからなのではないかと思う。
そのストーリーを伏線や演出でここまで秀逸な作品に仕立てたのは素晴らしいと思うが、やはり元の弱さが否めない。

『母なる証明』という意味もよく分からない。
この作品に関して言うと、もはや親子という問題ではない気がしてくるからだ。
母親、そして息子の個人としての人間性の問題だ。
そうなってしまう一番の問題は、この親子が冒頭から既に少し狂っているからではないだろうか。初めから狂っているので、「やってもおかしくない」とさえ思ってしまう。
「やってもおかしくない」ことを「やって」も、映画としてはしょうがないだろう…。

ただし、ポン・ジュノさんの演出の手腕の凄さを体験出来るだけでも、おすすめする理由にはなるだろう。

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Humbug

Humbug

2009年 Arctic Monkeys (アークティック・モンキーズ)

Crying Lightningの記事でちょっと触れた、アークティック・モンキーズの最新アルバム。
やっと入手…。
というのも、同じ記事で触れている、ジュリアンのソロアルバム『PHRAZES FOR THE YOUNG』と同時に入手しようとしてたのだが、そちらが発売日延期(輸入版。日本版は既に発売中)ということなので、待ちきれずに購入。。

1,2枚目の疾走感と勢いのあるアルバムからすると、凄い変貌を遂げたアルバムの様な気はするが、『The Age of the Understatement』を聴いた人にとってはそれほど驚きの変貌ではないように思う。
『The Age of the ~』はちょうど2枚目と3枚目の間に、アークティック・モンキーズのアレックスが一時的に組んだバンドである。
そこでやっていたことを、アークティック・モンキーズのロック調におとしこんで、骨太にしたような感じ。

1曲目の「My propeller」、2曲目の「Crying Lightning」は聴けば聴くほど病みつきになってくるような感じがある。スルメみたいに。
7曲目「Cornerstone」がとっても良い。
こういう電子音の使い方は最近の流行なのだろうか…。『PHRAZES FOR THE YOUNG』の曲を視聴したりしても、こういった電子音が使われていた。
またビートルズの様な印象もある。

ただ、他の曲はというと…まだ印象が薄い。
2,3回くらいしか聴いていない今の段階では、他のはどうしても似通った感じがしてしまう。多少ダレるとも言えるかもしれない。

アークティック・モンキーズのドラム(マット・ヘルダース)は最強だ。ひょっとしたら隠れた憎い仕事をしているのかもしれないが、このアルバムでは私の様な人間にはそれほど凄さが分からない。
それもまた一つ残念な要素だ。

さてさて、気の早い話にはなるが、3枚目でここに到達した彼らが次に何をしでかすのか、早くも楽しみでしょうがない。

Humbug Humbug

アーティスト:Arctic Monkeys
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ロゼッタ

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1999年 ベルギー=フランス

監督/脚本 リュック・ダルデンヌ
        ジャン=ピエール・ダルデンヌ
出演 エミリー・デュケンヌ
    ファブリツィオ・ロンギオーヌ
    オリヴィエ・グルメ
撮影 アラン・マクルーン
配給 ビターズ・エンド

今作と『ある子供』の2作で、カンヌ国際映画祭パルムドールを2度受賞しているダルデンヌ兄弟。
私は恥ずかしながら、初体験になります…。

小さなトレーラーハウスでアル中の母親と暮らす、ロゼッタ。
母親は目を離せば男の家へ行き、酒とセックスを断てずにいる。
ロゼッタは1人、生活の為に職を転々とする…。いつも食べているワッフルのお店の店員と親しくなるのだが…。

面白かった。
貧乏モノという段階で私の好物なのだが、徹底してドラマと音楽を廃し、ロゼッタの日常に迫っていったのは素晴らしい。
またラストの為に徹底して仏頂面を続けたロゼッタ。
この無作為と作為のバランスがちょうどよくていい。

親子愛や友情というものは、切迫した現実の前ではいかに脆いか…。
私もアル中の人間が身近にいるので分かる。親子愛でアル中を乗り越える…なんて展開は現実にはない。
だからこの母親が、娘をドブに突き落としてまで入院から逃げる様はリアリティを感じる。
そしてそれは友情でも同じことが言える。この映画はそこの所をオブラートせずに私たちに突きつけてくる。

だが、貧困の中で心の充実や安らぎをもたらせるものがあるとすれば、それは友情や親子愛なのかもしれない…。
この矛盾したメッセージがきっとこの映画の中にあるような気がする。

だがしかし、ぼくの中では同じ貧乏モノ『SWEET SIXTEEN』を越える作品ではなかったのも事実。
この作品では、ロゼッタの日常が淡々と、永遠と描かれる。
その中でも特に多い描写が、ロゼッタの貧乏生活の様子である。

洋服を格安で売る。
ドブでこっそり罠を仕掛けて魚を捕まえる。
ドライヤーでお腹を暖める。
ゆで卵を一つだけ作って食べる。などなど

ちょっと多すぎると思った。
ここまでやってしまうと、「貧乏自慢映画」に見えてしまってくるのだ。この差は非常に難しい。この描写が少なすぎたらリアリティがなくなるし…。
ただ、この作品はやり過ぎている気がした。
「貧乏」であることの説得力は充分あるのだから、もっと違うことに尺を割いてもよかった気はする。

貧困により歪められて行くロゼッタの心は、ラストにあふれ出す。
あのラストをどう捉えるかは人それぞれだと思う。
怯えた顔に見える人もいれば、安堵した顔に見える人もいるだろう…。(私は後者でした)
あの表情は、ラストを飾る力が充分にあった。

しかし、上画像の様に、街中で佇んでいるだけでこんなにも絵になるのはなぜだ。
日本人が観るからそう見えるのかもしれないが…。
実は私は作品通して、序盤の上画像のカットが一番好きだったりします…。


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雲のむこう、約束の場所

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2004年 日本

監督/脚本/他いろいろ 新海誠
キャラクターデザイン/総作画監督 田澤潮
声の出演 吉岡秀隆
       萩原聖人
       南里侑香
音楽 天門

『秒速5センチメートル』でも取り上げた、新海誠さんの作品。
『秒速-』の前に制作されたものである。

北海道が「ユニオン」に占領され、本州と分断された世界。北海道には天まで登る“ユニオンの塔”という巨大な謎の塔が建設されていた。
主人公の男子中学生の2人は、自分たちで密かに飛行機を作り、その塔まで行くことを夢見ていた。そしてその2人と同級生である、女子中学生も彼らと行動を共にすることになるのだが…。

新海さんの作品は、これに限らず非常に好き嫌いが分かれる作品だと思う。
それはクオリティがどうということではなく、あくまで個人的趣向によるものだ。私も個人的趣向の上で、感想を書かせてもらいます。

一言で言えば「しゃらくせえ」というのが感想だ。

全編通してウジウジした感じがぬぐえない。
高校生になって、中学時代のことを思い出しておセンチになる主人公なんて“個人的に”大嫌いだ。おっさんじゃないんだから。

中高生の頃の恋愛って確かにとても比重が重いし、幼い分思い入れが激しいのは分かる。でも中高生だからこそ、あっという間に違った女の子に同じ様に入れ込んだりするものだ。
だから私にはこの登場人物が、成人が“あの頃”に対して抱いている妄想や理想の塊で作られている様にしか見えなかった。
これは『世界の中心で愛をさけぶ』でも同じように思った。
“理想”で作られたキャラクターには、実感を感じない。

全編通して、センチメンタルな音楽とセリフ、そこに吉岡秀隆さんのナレーションが入ってしまったら、もうやりすぎなのではないかと思う。
吉岡秀隆さんの声が悪い、ということではなくて、全てのベクトルが同じ方向を向きすぎていて逆に力を失っている様に思えた。

センチメンタルな曲やセンチメンタルなセリフは、ここぞという時に出して初めて効果を得られるのではないかと思う。
たとえそれがどんなに良い曲でも、良いセリフでも、ずっと聞かされていたら嫌気がさしてくるし頭にも入らない。
そのせいかぼくは今になってもこの作品がどんな話だったのかイマイチわかっていない。

ただ相変わらず、背景や光の描写は素晴らしい。
例えばスケートのシーンで、スケートの歯がきらきらと光を反射していたり、電車内の天井で光が走ったり…。
少ししかないのだが、戦闘機での戦闘シーンもクオリティが高くてよかった。
だからできる事なら、もう少し動きのあるカットを沢山観たかった。

それにしても、新海さんという方は、学生時代によほど凄い恋愛をしたのだろうか。もしくは凄い妄想をしてたのだろうか…。
中高生の恋愛、というジャンルへの徹底したこだわりと理想が垣間見える。
ただもう3作(4作?)作ったのだから、次回はそこからの脱却を期待したい。

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危険な二人

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1992年 岡崎京子

古本屋さんで発見しました。

顔がエロく、出会った男とはなぜかいつもすぐに体の関係を持ってしまうヨーコちゃんは、お料理がうまく、ぬか臭いお嫁さんになるのに憧れている。
わがままで男友達の多いセーコちゃんは、バージンで、背の高い理想の彼と草原を走り回るマリーアントワネットに憧れている。
彼女ら二人は共同生活をしている。
ある日、セーコちゃんの前に理想の彼「サリィ」が現れるのだが…。

今まで読んだ岡崎さんの作品の中では一番「バブル」の匂いが強いものだと思った。
他の作品でも、この匂いはよくあり、岡崎漫画の特徴でもある。

この作品のヨーコちゃん、セーコちゃんは「バブル」時に最も多かった女性のタイプではないだろうか。
お金があって、いいスーツを着て、いい車に乗っているような王子様を求めて、連日街へ出て行く。まるで数年前のトレンディドラマを見ているような気にさえなった。
女性も男性も、非常にハングリーで肉食的だった時代。

それはストーリーにも大きく関わってくる要素だ。
<以下ネタバレあり>
様々あって、ヨーコちゃんとセーコちゃんは、父親抜きで子供を育てていくことを決意する。
父親なんていなくても、ママが二人でもいいじゃん!っと言い切れるのはその強さの象徴ではないかと思う。

そして元来あった“家族”というものの常識や観念をぶっ壊してしまうようなラスト。
「子供を大切に~」とか「子供の為に~」なんて言葉が軽々しく飛び交っている現在ではとても新鮮だ。
ロックだね。

ただやはり多くの点で、今読むと非常に古臭い部分があるのも否めない。
それだけ当時の雰囲気が出ているということなのだろうけど、不変なテーマではなかったということなのかもしれない…。

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実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

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2008年 日本

監督/脚本 若松孝二
脚本 掛川正幸
    大友麻子
出演 ARATA
     坂井真紀
    並木愛枝
    地曵 豪
ナレーション 原田芳雄
撮影 辻智彦
    戸田義久
音楽 ジム・オルーク
配給 若松プロダクション

銀座シネパトスで現在特集公開している作品。観てきました。
若松孝二さんについてはほぼしりませんし、他の作品も観たことはありません…すみません。

1960年代の学生運動から、1970年の山岳ベース殺人事件、1972年のあさま山荘事件に至るまでの経緯を、連合赤軍側から捉えた作品。
3時間10分の大作。

前半は原田芳雄さんのナレーションと実際の映像や写真などを使った歴史の説明が多くある。これは私の様な当時を知らない人間にとっては、普通に勉強になる内容だ。
そして後半、連合赤軍が誕生し、山での軍事訓練をし始めるあたりから徐々に映画らしくなってくる。

学生運動をテーマとする場合、必ず問題になってくるのは“立ち位置”である。(ちなみに私はいわゆる“ノンポリ”ですが)
この作品も「連合赤軍を美化している」という批評もあるようだが、私にとっては何が美化で何が批判であるかなど、分かるはずもない。
ただ、この作品を見る限りは、美しく描かれている様には思わなかった。

革命などと叫んでいながら、目的が同志の粗探しや追及へと変わっていく様。
行き詰まり、もはや自分たちのエネルギーや暴力への欲求を発散させる場所をただ探しているような、空しい空間。
そして彼ら特有の「言葉」を使い、死の責任や呵責から逃れようとする様。
それらの様子は私にとってはどれも「美化」とは決して呼べない。

この「言葉」という問題は非常に大きかったのだと思った。
そもそも学生運動というものを知るにも沢山の「言葉」を知らなければならない。
それを知らない者には理解できないもの…そして知る(もしくは知ったフリをする者)はその優越感を味わいたかったのかもしれない。

この作品にも「総括」という言葉が多く登場する。
「総括」とはなんなのか。おそらく言っている本人達もはっきりしたことなど何もわかっていないだろう。
だがそういうワケには行かないのだ。

「言葉」というものの持つ力の恐ろしさがよく分かった。

そしてラストには若松監督自身の「総括」をしてみせる。
それ自体が正しいかどうかは分からないが、観ている時にぼくもほぼ同じようなことを思っていた。
「てめえら都合よすぎるぞ!」ってね。

制作費が少なかったせいか、チープさを感じる部分も少なからずあった。
しかしそれでもこのくらいの重みを持った作品になっているのは、スタッフや出演者の情熱なのだろうと思う。
そして若い人間にとってはよい勉強にもなる。(あくまで歴史の)

もうこの時代の事を、おじさんが作っておじさんが観て、懐かしみ悲しみ後悔するだけなのは止めましょう。
この作品は私らにも分かりやすくできているんだから。

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ぼくの村の話

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1992年~1994年 尾瀬あきら
全7巻

1960年代~1970年代は激動の時代と呼ばれ、様々な事件や運動が起こっていた。
私はどうもその時代への興味が強い様で、特に学生運動に関しては様々な本や映画などを観た。
だが、一つだけどうにも目に触れることが少ない事件がある。
それが現在の成田空港が作られた時に起こった三里塚(成田)闘争である。

私はこの闘争について詳しく知るまでは、学生運動の事件のひとつとしてしか考えていなかった。
つまり、左翼の学生達による反政府の運動として認識していた。
だが、この三里塚闘争に関してはちょっと様相が違う。
詳しいことは調べていただきたい。いや、調べるべきだと思う。ウィキペディアなどにも載ってます。

この漫画はその三里塚闘争について描いた漫画だ。(ちなみに作中では三野塚という場所でのフィクションということになっている)
私は作者の尾瀬あきらさんは全く知らなかったが(すいません)、調べていく過程で見つけた作品である。

主人公は三野塚に暮らす、農家の息子。
彼から見た闘争の全容を描いた作品。

農家の息子という目線なので、もしかしたら偏った作品になるのかもしれない。
ただ、ぼくは純粋に感動し、泣いてしまった。
成田空港の問題に、私の様な無知な人間がとやかく言うつもりはないが、あの事件を知らずにいることが一体どういうことか…それがよく分かった。
私の世代に限らず、この事件を知らない世代も成田空港は使うだろう。いや、自分で使わなくても輸入された食べ物や商品に触れている。
そういった生活に密着した成田空港が、一体どんな歴史、犠牲の上に成り立っているのか、ということは知る義務があるのではないだろうか。

左翼だとかマルクスだとか毛沢東だとか…そういう言葉に紛らわせない、生きる場所の死守という百姓の思いがよく描かれている。
成田空港の建設に際しての国の方針は明らかに間違っていた。それは1993年に国が謝罪したことをみても明白だ。
でもその時の人間達の命を懸けた戦いと、犠牲者たちの思いは、間違っていたではすまされない。
だからこそ、この事件のことは私たちの世代が確実に知らなくてはならないことだ。

だが、この事件は確実に未だにタブーとされていると思う。
この漫画が絶版になり、三里塚闘争を描いた映画がソフト化されていないことを見てもあきらかだろう。
なぜなのか…。
それは未だにこの三里塚闘争は終わっていないからかもしれない。
そして成田空港は何事もなかったかのように稼動しているからかもしれない。
とにかくこの事件が歴史から葬り去られてしまいそうなことに、強い憤りを感じる。

三里塚―成田闘争の記憶三里塚―成田闘争の記憶

著者:三留 理男
販売元:新泉社
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